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zoom RSS くらやみの速さはどれくらい  The Speed of Dark

<<   作成日時 : 2009/01/18 02:11   >>

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 昨年の暮れからつい先日まで、じっくりと長編の分厚い文庫を読んでいた。

 途中、年末年始の休みで痛勤もとい通勤が無かったので、いつになく本を読む進み方が遅かったが、そればかりでなく、本の内容が久々にじっくりと余韻を味わいながら情景を思い浮かべるものだったからだ。



 エリザベス・ムーン著、小尾美佐訳

 くらやみの速さはどれくらい  (The Speed of Dark )


画像



 
 「この時代、自閉症に関する画期的な療法が開発され、幼児期であれば治療可能なものとなっていた。またそれ以前に生まれたものであっても、ある種のトレーニング法によって症状を著しく緩和し、就職して日常生活が営めるようになっていた。」(解説より)


 主人公は自閉症者の製薬会社社員ルウ・アレンデイル。

 ルウは、すぐれたパターン認識能力、特定の事象への集中力を生かした自閉症の人たちにによる専門部署セクションAの一員だ。
 
 通常の人間では分からないパターンを発見する分析能力、あらたな検索アルゴリズムを考え出す能力は、セクションAの生産性を極めて高いものにしていた。
 一方でセクションAに勤める自閉症者たちは健常者(ノーマル)?!とのコミュニケーション能力に欠ける。
 またその能力を発揮させるための支援施設(シャワーや、ジャンプするためのトランポリン、ドア付きの小さな個室、オーディオ・システム)が必要だ。


 あらたに赴任してきた管理部長クレンショウは、こうした支援システムが気に入らない。こんなものに費用をかける必要はないと考えている。セクションAのボスのオルドリンが、彼らの生産性を維持するためには必要なものだし、初期投資は終わっている。彼らの生産性に比べれば維持費はとるにたらない、と反論しても聞く耳を持たない。

 
 クレンショウは実験段階の自閉症の治療方法を導入し、センクションAの人員になかば強制的に実験的治療を受けさせ、ノーマルと同じ勤務形態にしようと画策する。

 脳のシナプスの結合形態を変容させ、正常な?!脳の回路を新たに形成するというものだ。


 ルウは正常なコミュニケーション能力に欠けるものの、カウンセリングを受けながら、人との対応の仕方も覚え、ノーマルの中でも様々な体験をする。

 5年間続けているフェンシングがその代表だ。
 フェンシング仲間(ノーマル)のトム、ルシアの夫婦に技を教えてもらい、同じ仲間のマージョリーには人知れず恋心を抱いている(が、どう表現してよいか分からない)。実はマージョリーもルウに好意を抱いているのだが・・・


 ルウは優れたパターン認識能力でフェンシングの対戦相手の技のパターンを見破り、隙をついて大会初戦で好成績をおさめる。
 

 フェンシング仲間のドンはフェンシング大会での好成績をやっかみ、マージョリーに横恋慕し、ルウに好意を抱いていることに嫉妬する。嫉妬によるルウに対する悪意は次第にエスカレートする。ルウは、タイヤに穴を開けられ、フロントガラスを割られ、終いには車に爆発物を仕掛けられる....

 そうして日常と違う対応を迫られる中で、ルウは次第に人とのコミュニケーションをもっと素直にとれないかと考えだす。


 強制的な実験的治療は、人権や法に反すると直属のボス、オルドリンがなんとか管理部長クレンショウの画策を阻止しようとする中、ルウは自ら治療を受けることを決心する。


 自分がどう変わるかは分からない、でも自分が本当にやりたかったことは・・・・・



 設定は近未来のSFだが、自らの子供も自閉症者であるエリザベス・ムーンの描く、自閉症者の感じ方、考え方が丁寧で、むしろ彼ら自閉症の人たちの方が、”感性”が優れていることがジーンと沁み渡ってくる長編なのだ。


 印象に残るフレーズ。

友人との会話。

「元気かい、ルウ?」とトムが訊く。彼はいつもこの質問をする。これはふつうのひとがいつもする質問の一つである。たとえ相手が元気だと分かっていてもだ。「元気です」と私は言う。

神父さんとの会話。

「まあはっきりとは言えないが」と彼は言う。「あながた言ったことについてもっとよく考えてみましょう、ルウ。もし話がしたいときがあったら・・・・」  それはもう彼がこれ以上話したくないという合図である。なぜふつうのひとたちはただ「ぼくはもうこれ以上話をしたくない」と言って立ち去らないのか私にはわからない。

 ルウは社交辞令的なコミュニケーションは苦手なのだ。むしろ相手の心を見透かしてしまう。ルウ自身は何とも思わないのに、心が見透かされることをノーマルの方が忌避してしまうのだろう。



 焼きたてのパンのにおいが途中で私の足を止めさせる。私はパン屋に寄り道をして温かいパンを買う。パン屋の隣には花屋があり、紫、黄、青、銅色、深紅色のかたまりが並んでいる。色彩は光の波長より多くのものを放つ。悦びを、誇りを、悲しみを、慰めを放つ。ほとんど耐えられないほどのたくさんのものを放つ。私は記憶の中にそれらの色彩と質感を貯え、パンをもってその香りをかぎ、私がとおりすぎてきた色彩とそのにおいを結合させる。


 私は深呼吸をして濡れた落ち葉のにおいを、岩についた苔の、地衣の、岩そのものの、土のにおいをかぐ・・・・・ある論文に、自閉症の人間はにおいにきわめて敏感だと書いてあったが、犬や猫がそうであってもだれもきにしない。


 ものごと、世界を微細に受け取る感性。なにがノーマルなのか・・・・



 ルウは過去の自閉症的な視点から得られた体験の記憶を大事に持ち続けていたいと思うと同時に、学びたいことを学ぶため、やりたいことをやるために、自ら進んで実験的治療を受け入れた。

 彼は変わり、そして・・・・・・・


 21世紀の「アルジャーノンに花束を」と言われる小説。一度手にとってみてください。
 自分の感性を見直すきっかけになるかもしれない。




 「暗闇は光のないところのものです」とルウは言った。「光がまだそこにきていませんから。くらやみはもっと速いかもしれない。   いつも光より先にあるから」

 題名になったこの言葉は、作者エリザベス・ムーンの実際の自閉症の子供の言葉だったということだ。


 翻訳の小尾美佐子氏は、「アルジャーノンに花束を」の翻訳も手がけた人。
 細やかな翻訳が活きている。



 


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